出版社/著者からの内容紹介
サラリーマンの皆さん、もし会社から三カ月間のリフレッシュ休暇を与えられたら、どうしますか? 「そんなに休んで職場は大丈夫なのか?」と仕事一筋に生きてきた人は、「時間のボーナス」に戸惑ってしまうだろう。
しかし、これを実際に行った企業がある。昭和63年、立石電機(現オムロン)は、社長の発案により、課長職6年目の社員を対象に長期(三カ月)休暇制度をスタートさせた。そして、多くの社員がこれを実行した。この本は、その様々な休暇の過ごし方や感想を綴った貴重な一冊である。
働きすぎと言われる日本のサラリーマン必読の価値アリ!
抄録(「電子書店パピレス」より)
立石電機京都工場の製造課長、西村邦夫(四十四歳)は絵に描いたような仕事人間だった。
滋賀県の大津商業高校を卒業して立石電機に入社してから会社一筋。帰宅は毎晩真夜中になり、家のこと、三人の娘たちの教育は昭和四十四年に職場結婚した妻の貞子(四十歳)に任せっ放し。有給休暇などほとんど取らず、ふだんの週休も家でゴロゴロ。年に一度の短い家族旅行が、唯一家族とのコミュニケーションらしい機会だった。
だから、昭和六十三年四月、長期リフレッシュ休暇開始を目前にして西村が急に「長期休暇中に四国霊場八十八カ所を自転車で回りたい思うんやけど、どやろか?」と相談してきた時、妻の貞子は「いちおう引き止めました」と言う。
「五百メートルの買物でも車を使う人ですからね、体力的な心配がありますし、それにやっぱり、交通事故のこともあるし……」
妻としては、長期の休暇が取れるのなら、家に帰ってきて欲しいと思っていた。その期間、夫としてだけではなく父親としての地位を回復して欲しい。せめてひとときでも、会社の仕事から離れて家庭に戻って欲しい、そう願っていた。
しかし、西村は、「前もって決心してからでないと相談しない男」だった。妻に相談した時にはすでに心を決めていた。
「最初リフレッシュ休暇のこと聞いた時、こらええ制度やな、絶対取ろう、思いましてね。まず、ふだん苦労かけてる女房連れて海外旅行しようと、これは真っ先に決めたんです。その次に自分自身のリフレッシュですが、心・技・体三つともリフレッシュできるものは何かといろいろ考えて、結局自転車による四国遍路が一番やろと、まァ落ち着いたわけです」
いかにも亭主関白のワガママ夫らしく、美形の夫人の方を見て悪戯(いたずら)っぽく笑う。
西村が自転車による四国霊場巡りを思い立ったのは、書店で旅行の参考書を漁っていて四国巡礼の本を手にした時、〈四国遍路は心身蘇生の旅〉という一文に出会ったせいである。“心身蘇生”という言葉が目に焼きついた。まっしぐらに仕事一途に生きてきたサラリーマン人生。悔いはないが、最近とみに体力と気力の衰え、それに視野の狭さを感じ始めていた。四十四歳というまだ頑張りのきくこの時期に、一度自分の歩んできた道を振り返りたい。心身の蘇生ができるものなら蘇生したい、もう一回自分を試してみたい、そう思った。
著者について
足立 倫行(あだち のりゆき)
昭和23(1948)年、鳥取に生まれる。ノンフィクション作家。早稲田大学政経学部中退。主な作品として「日本海のイカ」「人、旅に暮らす」などがある。