経営の暴走

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著者:黒薮哲哉
価格:¥ 1,344
リム出版新社


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■ 内容紹介

出版社/著者からの内容紹介
 合理化、解雇、会社閉鎖……事業者責任は検証されたのか?! 安易で陰湿な解雇についてのレポートから、悪質な長銀不正融資疑惑事件の内部資料公開まで、一切のタブーを排して、経営の「爆走」による人間疎外の実態を明かす!


抄録(「電子書店パピレス」より)
 新聞社の社会正義とは

 東陽社分会とは、朝日新聞社の専属広告代理店・東陽社の閉鎖に伴って強行された解雇に抗して、闘い続けている社員たちの集まりである。朝日新聞社が関与したとされるこの事件から5年半。現在、50代と60代からなる6人の労働組合員たちが全労連などの支援を得て、働く権利の回復を勝ち取るための争議を展開している。
 事件が起こった1994年1月当時、東陽社の本社は東京・日本橋のオフィス街にあった。交通の激しい表通りを外れると、大小のビルが立ち並ぶ比較的静かな街が広がっている。この街の一角に10階建ての近代的なガラス張りの建物・フォーリッチ・ビルが聳《そび》えている。東陽社はこのビルの8階と9階を事務所として使用していた。
 東陽社争議について、新聞ではほとんど報道されていない。新聞記者たちの目と鼻の先で進行している重大な事件にもかかわらず、黙殺に近い状態が続いてきた。この事件は単なる労働争議という以上の問題を孕《はら》んでいる。新聞社経営とジャーナリストの良心に関わる問題である。
 東陽社事件の取材をはじめてから、私は多くの報道関係者に東陽社事件が新聞で報道されないことへの疑問を提示して、意見を聞いてきた。返ってくる答えはおおむね同じ内容だった。朝日新聞社の記者にこの問題を報道させるのは酷だ、と。記者たちの大半は個人的には東陽社を解雇されて争議を続けている「仲間」に同情している、それで十分だ、報道できる環境が整っていない、悪いのは新聞社の経営者だ、と。つまりあれこれと理由をつけては、報道しない事を正当化してきたのだ。
 私は極論との批判を承知のうえで断言するが、東陽社事件は、新聞社の入試で未来のジャーナリストたちに見解を問うてもいいほどジャーナリズムの在り方について深い問題を孕んでいると思う。ジャーナリストは会社の権益と報道のどちらを優先すべきなのか。それを考えながら、私は大企業の合理化を背景としたこの事件を追ってみたい。

 会社閉鎖・全員解雇

 94年1月17日、東陽社でのことだ。
 その日、業務が始まってまもなく、加藤欽造社長から労組(労働組合)の幹部たちに対して呼び出しがかかった。加藤は朝日新聞社から東陽社へ出向しているサラリーマン社長である。労組の副委員長(現・書記長)を務める福山正弘さん(49歳)たちが9階にある会議室へ入って行くと、加藤ら数人の幹部が待ち構えていた。
 福山は会社再建策についての話し合いが持たれるのかも知れないと思ったという。東陽社は長期にわたり経営不振に陥っていたが、ひと月ほど前、経営陣と労組は会社を再建するための確認書を取り交わした。これは年末のボーナス交渉に端を発したもので、労組が会社側の一次回答を受け入れて、夏季ボーナスの約半額で合意するかわりに、経営側は朝日新聞社の支援を得て、経営を立て直すように努力する旨を確約したものだった。
 ところが福山らの予想に反して、加藤社長は労組幹部たちに、東陽社を2月末で閉鎖することを伝えた。さらに加藤は、3月から朝日新聞社が新しい案内広告の代理店・朝日エージェンシーをスタートさせ、東陽社の社員のうち約半数を新会社で採用する予定になっていると付け加えた。半数しか採用されないのなら当然、失業へ追い込まれる社員も出てくるが、加藤はそのことについては言及しなかった。福山たちの反発を受けかねないし、言わずとも状況を察してもらえると考えたのだろう。
 労組の幹部たちにとっては予想もしない通告だった。東陽社は赤字経営には違いなかったが、閉鎖しなければならないような状態ではない。再建するために会社側と覚書を交わしたばかりだった。あまりに露骨な画策だったので、福山は、団体交渉に持ち込めば会社側が通告を撤回するかも知れないとすら考えたという。社会的な信用が経営に影響しかねない新聞社が主導して、下請け会社を閉鎖し、従業員の一部だけを引き抜いて、新会社をスタートさせるなどの暴挙に出るとはとても想像できなかったのだ。

 昼休みになって会議室に社員全員が招集された。総勢80人である。加藤社長は会社閉鎖と新会社の設立について正式に通告した。社員たちは事態がよく理解できなかったのか、質問はほとんどでなかったという。それでも怒った組合員の中から、「年末に結んだ会社再建策の確約書はどうなるのか?」といった質問がひとつふたつ出された。
 福山たち労組の幹部も同じ疑問を抱いていた。確認書に調印してからひと月も経過していない。再建のための取り決めはなんだったのかという疑問が湧いてくる。加藤社長が確認書を受け入れた時点では、すでに東陽社を閉鎖して、朝日新聞社が新会社・朝日エージェンシーを設立する計画が出来ていたのではないかという疑念すら抱いた。
 午後、労組の幹部たちは団体交渉を申し入れた。福山が証言するところによると、加藤社長は次のような弁解を繰り返したという。「赤字がかさんで経営が立ち行かなくなった。銀行も融資をしてくれない。朝日新聞社への支払いも滞っている。このままだと倒産する。当然、退職金も支払えない。今だったら、朝日新聞社が退職金の面倒をみてくれる。それに約半数の社員を救うために新会社を作ってくれる」
 朝日新聞社が善意により新会社を設立して、倒産する東陽社の社員を救済してくれるというのが加藤社長の言い分である。極論すれば、社員の救済はまったく朝日新聞社の善意であって、本来的にはそうした措置は必要ないと主張しているに等しい。
 しかし、加藤の論理には矛盾点がある。東陽社の従業員や彼らが開拓した広告主をそのまま、新会社へ譲渡することなしには、朝日新聞に掲載する広告の作成は大きな打撃を受けるという点だ。もし、新規に採用した社員たちがゼロから広告主を開拓することになれば、紙面の案内広告が長期にわたり空白になることは避けられない。
 東陽社社員の採用は、朝日新聞社の善意ではなくて、新聞社経営を従来どおり続けるうえで必要不可欠な措置にほかならない。論理がまさに逆さまだ。
 労組と経営側の団体交渉は連日続いた。1月20日には事態を重大視した全国一般、中央区労協、広告労協などの組合も団体交渉に加わり、深夜まで東陽社の会議室で話し合いが続いた。しかし、東陽社の経営側は同じ説明を繰り返すばかりだった。加藤社長はとうとう居直って、自らの本音を吐《は》いた。
 「これは朝日新聞社の常務会で決まったことです。私も朝日の社員ですから、上司の命令に従っただけです」
 これが団体交渉の決裂を告げる最後の言葉となった。


著者について
 黒薮 哲哉(くろやぶ てつや)
 1958年兵庫県生まれ。新聞専門紙記者などを経て97年からフリーに。80年代は米国とメキシコに在住、ニカラグアなど中米紛争の取材を開始する。
 92年、本田技研メキシコ工場に材を取った『説教ゲーム(改題:バイクに乗ったコロンブス』でノンフィクション朝日ジャーナル大賞「旅・異文化」テーマ賞を受賞。98年、「ある新聞奨学生の死」で週刊金曜日ルポルタージュ大賞「報告文学賞」を受賞。
 著書に、受験体制下で荒廃する兵庫県の中学校をリアルに描いた『ぼくは負けない』(民衆社、1977年)、『バイクに乗ったコロンブス』(現代企画室、1995年)、『新聞ジャーナリズムの「正義」を問う』(リム出版新社、1998年、「JLNAブロンズ賞優秀賞」受賞)、共著に『ダイオキシン汚染報道』日本ジャーナリスト会議編(リム出版新社、1999年)がある。

■ インデックス

 序文


第1章 閉じ込められたトレーサー
――構造技研・急増する陰湿な解雇――
 配置替え
 会社人間を否定
 退職勧奨
 応接室へ隔離
 公共事業と天下り
 崩れゆく雇用制度
 資料


第2章 大新聞社が専属代理店閉鎖
――東陽社全員解雇事件と朝日エージェンシー設立――
 新聞社の社会正義とは
 会社閉鎖・全員解雇
 案内広告
 T委員会の策略
 健全な広告を目指して
 下請け搾取の構造
 家族たち
 都労委の命令と争点
 資料


第3章 大空の死角
――スチュワーデス労災認定裁判を追う――
 労災認定裁判
 健康優良児が……
 乗客の安全を優先
 機内での救命
 休職
 資料


第4章 国立病院が消える
――長時間夜勤導入と合理化の中で――
 生命を見つめて
 2交替制の苦痛
 患者の立場から
 美幌病院の厚生省陳情
 夫婦で難病と闘う
 延命か自然死か
 資料


第5章 長銀不正融資疑惑
――犠牲者たちの8年後――
 〈1部〉 香港経由の迂回融資
 山一証券の倒産
 登記留保・32億円の融資
 2億円の超過
 単独か、組織か
 融資を仲介したEIE・高橋治則会長
 不動産融資の総量規制
 先物特権付きホテル
 裏工作を探る
 社長からの私信
 専務の解雇
 ラグナ・インを売却せよ
 住友銀行と融資工作
 会社破綻


 〈2部〉 社員たちの8年後
 ラグナ・インを750万ドルで売却
 家族崩壊
 うちにお父さんはいません
 憎悪感
 整骨師へ転職
 水商売
 詐欺師
 騙しの手口
 接待漬け
 同時通訳しろ
 偽りの税理士
 親子で保険勧誘
 連続解雇
 マンションで老後
 挑戦なき世界
 資料


あとがき

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「経営の暴走」紹介ページの最終更新日時
2009年7月8日 17:33:07
ID:167
※実際の販売・ダウンロードは『電子書籍パピレス』にて行われます。